カビ臭・シミ・虫食いのある着物は売れる?処分と修復の正しい判断基準
遺品整理士:佐藤美知子
目次
- 「状態の悪い着物」でも売れることはある?まず知っておきたい基本
- 状態別チェック:カビ・シミ・虫食い、それぞれの判断ポイント
- クリーニング・修復費用と買取価格の「損益分岐点」を知る
- 査定に出す前にできる応急処置と、やってはいけないNG行動
- 売れなかった着物の「廃棄以外の選択肢」
- まとめ:迷ったら、まず査定へ

「タンスを開けたら、かなり年季の入った着物が出てきた。カビ臭がするし、シミもある。これ、売れるのかな…」
遺品整理や生前整理をしていると、こんな場面に出会うことが少なくありません。特にご両親やご祖父母の着物は、数十年前のものが多く、保管状態が良くない場合も多いです。「価値があるかもしれないけれど、こんな状態で査定に出してもいいのか」「お金をかけてクリーニングに出すべきか」と、頭を抱えてしまう方もいらっしゃいます。
この記事では、カビ臭・シミ・虫食いのある着物の扱い方について、買取の現場目線で丁寧に解説します。クリーニングすべきか、そのまま査定に出すべきか、それとも廃棄すべきか——その現実的な判断基準をお伝えします。
1. 「状態の悪い着物」でも売れることはある?まず知っておきたい基本

カビ・シミがあっても買取対象になるケースは多い
結論から申し上げます。カビ臭・シミ・虫食いがあっても、着物は売れる場合があります。
「状態が悪い=価値なし」ではないのが着物の世界です。買取業者が見ているのは、まずその着物そのものの価値です。素材・産地・作家・染め・柄の希少性——こうした要素が高評価な着物であれば、多少の汚れやカビがあっても買取対象になることは珍しくありません。
橙堂にも、「こんなボロボロのものを持ち込んで申し訳ない…」とためらいながら持参されたお客様が多くいらっしゃいます。先日も、タンスから出てきた大島紬を「シミが出ているし、もうダメだろう」とおっしゃっていたお客様がいました。実際に広げてみると、正絹の良質な生地で、シミは最小限。しっかりと買取させていただくことができました。
着物の「品物の価値」と「状態」は別物
着物の査定は大きく2つの軸で行われます。
- 品物自体の価値:産地・素材・作家性・柄・染め技法など
- 状態による加減額:カビ・シミ・虫食いなどのダメージ度合い
たとえば、有名な西陣織の帯や人間国宝が関わった着物などは、たとえ状態が悪くても買取対象になることがあります。一方、量産品の化繊着物は、状態が良くても買取額はごくわずか、または難しい場合もあります。
証紙(産地証明)がない場合、たとえ本物であっても買取価格が大きく下がる、あるいは産地物として扱われない場合があります。
つまり、「状態が悪い」という理由だけで諦める必要はないのです。査定してみなければ分からないのが着物の世界です。
2. 状態別チェック:カビ・シミ・虫食い、それぞれの判断ポイント

カビ臭がある着物の場合
カビ臭のする着物に対して、多くの方が「クリーニングに出してから持ち込まなければ…」と思いがちです。しかし、その判断は少し待ってください。
カビには2種類あります。
- 表面カビ:繊維の表面に付着しているだけで、拭き取りや専門クリーニングで改善できるもの
- 繊維内部まで侵食したカビ:生地そのものが傷んでいて、クリーニングをしても完全には回復しないもの
表面カビであれば、買取業者側が対処できる場合もあります。ただし、カビが広範囲に及んでいたり、生地に変色・劣化が見られる場合は、買取が難しくなることもあります。
判断のポイント:
- 臭いはするが、生地自体に変色・べたつきがない → 査定に出す価値あり
- 白や緑のカビが表面に見える → まず査定へ(業者が判断できます)
- 生地が茶色く変色・ボロボロになっている → 廃棄を検討
シミ・汚れがある着物の場合
シミは着物の中で最も多いダメージです。遺品整理に出てくる着物のほとんどに、程度の差こそあれ何らかのシミがあります。
シミの種類と扱いを簡単に整理すると:
- 経年による黄変(黄ばみ):多くの着物に見られる自然な経年変化。専門のシミ抜きで改善できることもあります
- 食べ物・汗などのシミ:新しければ落としやすいが、年数が経つと繊維に定着し落としにくい
- 水シミ(輪じみ):水が蒸発した跡。専門的な処置が必要なケース
正絹のシミの正体:タンパク質の酸化と黄変
正絹(絹)の着物のシミは、主に「お蚕様」由来のタンパク質が時間と共に酸化し、黄色く変色する「黄変」が原因です。主な発生源は、汗や皮脂の長期放置、保管時の湿気、そして汚れに誘引された虫食いなどです。特に裏地(胴裏)に見られる茶色いシミは、経年劣化によるタンパク質の変質が多く、専門的な漂白処理(黄変直し)が必要となるケースがほとんどです。
胴裏の茶色いシミ(黄変)の主な原因
この胴裏の黄変には、以下の要素が関係しています。
- 汗の成分(黄変): 汗に含まれるミネラルやタンパク質が酸化し、変色したもの。
- カビ・湿気: 通気性の悪い環境で保管され、カビが繁殖し酸化した状態。
- 増量剤(糊)の酸化: 古い絹製品に多く見られる、生地を厚く見せるための糊(増量剤)が経年で酸化・変色したもの。
シミやカビを見つけた際の最も重要な対処法は、絶対に強く擦らないことです。水拭きや摩擦は、水染み(輪じみ)を広げたり、繊維を傷める原因となります。また、胴裏などにカビが見つかった場合は、他の着物への伝染を防ぐためにも、一緒に保管せずに早めに専門家に相談してください。
買取が難しい場合の選択肢
状態が悪く、通常のシミ抜きが難しい場合でも、着物には染め替えや柄足しといった修復の選択肢が残されています。また、帯はテーブルランナーやランチョンマットなどの小物へ、穴あきがある着物も仕立て変えで場所を避けるなど、リメイク・アップサイクル素材として活用できます。極めて稀ですが、古裂(こぎれ)として**裂地(きれじ)**に高い価値がつく場合もあります。(例:室町・桃山時代の渡来裂、江戸時代の名物裂、友禅裂など。※この価値の判断には専門知識が必要です。)
シミがあるからといって、すぐにクリーニングを依頼するのは**少しもったいないかもしれません。**理由は後述しますが、クリーニングに出す前に一度査定に出したほうが、結果的に損をしないことが多いからです。
虫食い(穴・傷み)がある着物の場合
虫食いによる穴は、着物のダメージの中では最も深刻です。ただし、穴の大きさや位置によって判断が変わります。
- 目立たない場所(背縫い付近・裾の内側など)に小さな穴が数か所:専門の職人による補修(かけつぎ)で目立たなくなることがあります
- 正面・帯より上の目立つ場所に穴:補修しても柄の再現が難しく、価値が大きく下がることも
- 穴が多数あり、全体的に弱っている生地:残念ながら買取・修復ともに難しい場合が多い
私たちの経験上、虫食いのある着物は位置と大きさが最も大事な判断基準です。「穴がある=価値なし」ではなく、「どこに・どのくらいの穴か」で大きく変わります。
3. クリーニング・修復費用と買取価格の「損益分岐点」を知る

クリーニング・修復費用の相場
着物のクリーニング(丸洗い)は、一般的なクリーニング店では対応できないことも多く、着物専門のクリーニングが必要になります。費用の目安は以下のとおりです。
着物の丸洗い(全体クリーニング):5,000円〜15,000円程度
シミ抜き(部分的):1か所あたり3,000円〜10,000円(難易度・大きさによる)
カビ取り(専門処置):10,000円〜30,000円程度(範囲による)
かけつぎ(虫食い修復):1か所あたり10,000円〜30,000円以上(場所・技法による)
これらを組み合わせると、1枚の着物に3〜10万円以上かかることも珍しくありません。
コスト対効果の計算方法
ここで大事なのが「損益分岐点」の考え方です。
修復後の買取予想額 > クリーニング・修復費用 であれば修復が得
しかし現実には、状態の悪い着物を修復したとしても、買取価格が劇的に上がるわけではありません。業者にとっても、修復済みの着物をそのまま転売するのは難しく(再修復が必要なことも多いため)、買取額に反映されにくい場合があります。
たとえば、修復前の査定額が3,000円の着物に、クリーニング代15,000円をかけたとします。修復後の査定額が8,000円になったとしても、差し引き10,000円の赤字です。
一般的な目安として:
- 修復費用が買取予想額の半分以下に収まるなら、修復を検討する価値あり
- 修復費用が買取予想額を上回りそうなら、そのまま査定に出すのが賢明
「まず査定、それから判断」がベストな理由
私たちが強くおすすめするのは、クリーニングに出す前に一度査定に出すことです。
査定で買取価格のおおよその目安が分かってから、修復コストとの比較ができます。また、プロの目線で「これは修復する価値がある」「このシミは業者側で対処できる」といった判断をしてもらえることもあります。先にお金をかけてしまうと、それが「サンクコスト(埋没費用)」となり、冷静な判断の妨げになることがあります。
4. 査定に出す前にできる応急処置と、やってはいけないNG行動

査定前にできる応急処置
カビの生えている着物の「隔離と一時保存法」
カビの生えた着物を見つけた際、最も重要なのは、カビの胞子が他の着物へ感染し、状態が悪化するのを防ぐ「隔離」です。査定に出すまでの間、以下の方法で一時保存してください。
- カビの拡大を防ぐ「隔離と乾燥」
- 他の着物から直ちに隔離する: カビは胞子で伝染するため、カビの生えた着物は和ダンスや収納からすぐに出し、単独で保管してください。
- 陰干しで湿気を取り除く: 直射日光を避け、風通しの良い場所で1〜2時間程度、着物を広げて陰干しします。湿気を帯びたカビの活動を弱めることが目的です。
- 他の着物から直ちに隔離する: カビは胞子で伝染するため、カビの生えた着物は和ダンスや収納からすぐに出し、単独で保管してください。
- 一時保存の梱包法
- ビニール袋は絶対に使用しない: ビニールは通気性がなく、着物内部の湿気を閉じ込めてカビを増殖させます。持ち運びの際も、使用しないように注意してください。
- 新しい和紙で包む: カビの胞子の飛散を防ぐため、たとう紙(着物用の包み紙)を新しいものに交換するか、新しい清潔な和紙や布で包み直してください。
- 重ねずに保管: 湿気がこもらないよう、他の衣類と重ねずに、風通しの良い棚などに一時的に入れておきましょう。
- 湿度の低い場所を選ぶ: 湿気の多い床下や締め切ったクローゼットでの保管は避けてください。
- ビニール袋は絶対に使用しない: ビニールは通気性がなく、着物内部の湿気を閉じ込めてカビを増殖させます。持ち運びの際も、使用しないように注意してください。
クリーニングには出さなくていいですが、査定前に以下の対処をしておくと、査定がスムーズになります。
カビ・臭い対策:
- 着物を陰干し(直射日光は避ける)にする。1〜2時間程度、風通しの良い場所で
- 専用の着物用消臭剤を少量使う(市販品で可)
- たとう紙(着物用の包み紙)を新しいものに交換する
保管・持参時の注意:
- 着物を重ねすぎない(湿気がこもりやすくなる)
- ビニール袋には入れない(蒸れてカビが悪化する)
- 桐箱や和紙があれば包んで持参する
やってはいけないNG行動
善意でやってしまいがちですが、着物の価値を下げてしまうNG行動があります。
| NG行動 | 理由 | 正しい行動 |
| ❌ 水拭き・濡れた布でシミを拭く | 水染み(輪じみ)が広がり、シミが増えてしまいます。 | シミが気になっても絶対に触らないこと。 |
| ❌ 直射日光に長時間当てる | 色焼け・変色の原因になります。 | 陰干しが基本です。 |
| ❌ コインランドリーや家庭用洗濯機に入れる | 正絹は水に弱く、縮み・色落ちの原因になります。 | 繊維を傷め、価値が大幅に下がります。洗いは専門家へ依頼すること。 |
| ❌ 市販のカビ取りスプレーを使う | 塩素系の薬剤は着物の染料や生地を痛めます。 | 着物専用のものを使うか、触らずに専門家に任せましょう。 |
5. 売れなかった着物の「廃棄以外の選択肢」
状態が悪く買取が難しかった場合の選択肢
残念ながら、状態があまりにも悪く、買取が難しいと判断される着物もあります。でも、「廃棄するしかない」と決めつける前に、いくつかの選択肢を知っておいてください。
① 着物リメイク・アップサイクル
着物の生地をバッグ・ポーチ・クッションカバー・小物などにリメイクするサービスがあります。柄が気に入っていたり、思い出のある着物であれば、形を変えて残すのも一つの選択です。費用は内容によりますが、10,000円〜50,000円程度が目安です。
② 着物専門のリサイクルショップへの持ち込み
買取額がほぼゼロに近い場合でも、リサイクルショップは引き取ってくれることがあります。少額でも手元に残るのは嬉しいですし、ものが循環するのは気持ちの上でも良い選択です。
③ フリマアプリ・ネットオークションでの出品
「着物 カビあり」「着物 難あり」として出品すると、ハンドメイド素材や稽古用として購入する方がいる場合があります。手間はかかりますが、捨てる前に試してみる価値はあります。
④ 自治体の粗大ゴミ・繊維リサイクルへ
どうしても処分が必要な場合は、自治体の繊維リサイクル回収を利用する方法があります。着物のまま廃棄するより、資源として再利用される形が望ましいです。
廃棄を検討する目安
以下のような状態の場合は、残念ながら廃棄を選択肢に入れることも現実的です。
- 全体的にカビ・湿気でボロボロになり、生地が崩れている
- 虫食いが全面に及んでいて、布地として使えない
- 悪臭が生地に染み込んでいて、陰干しでも改善しない
- 専門家が見ても「修復不可能」と判断した
それでも、状態の悪い着物を自己判断で「価値なし」と決めつけるのは早計です。専門家に一度見てもらうことが最初のステップとして最善です。
6. まとめ:迷ったら、まず査定へ
カビ臭・シミ・虫食いのある着物の扱いを整理すると、こうなります。
着物の「売る?捨てる?」判断基準
状態が悪くても諦める前に、このフローで確認してください。
Q1. どんな状態ですか?
見た目やニオイを確認してください
価値が高い品
- ・有名作家/ブランド品
- ・証紙(証明書)がある
- ・正絹(絹100%)
即、査定へ!
汚れがあっても高額査定の可能性が非常に高いです。
一般的な傷み
- ・カビ臭い
- ・数センチのシミがある
- ・ポツポツと虫食い
まずは査定へ
クリーニングは不要。そのままの状態で価値をプロに判断してもらう。
深刻なダメージ
- ・生地がボロボロ(裂ける)
- ・全体が変色している
- ・耐えがたい悪臭
廃棄 or リサイクル
ハギレとして販売するか、残念ですが処分の検討を。
最終判断のルール
「迷ったら査定」が鉄則です。 プロは汚れの下にある「本当の価値」を見ています。自分でクリーニング代を払う前に、まずは無料見積もりを利用しましょう。
- 状態が悪くても、着物の価値次第で買取になる場合は多い
- クリーニング・修復は、査定後にコストと比較してから判断する
- 水拭きや洗濯機など、価値を下げるNG行動には注意する
- 買取が難しい場合も、廃棄以外の選択肢がある
最も大切なのは、「どうせダメだろう」と自分で決めつけずに、一度専門家の目に触れてもらうことです。橙堂では、状態の悪い着物でも丁寧に拝見し、正直な査定をお伝えしています。「価値がない」と判断した場合も、その理由と今後の対処についてアドバイスをしていますので、どうぞ安心してご相談ください。
ボロでも価値がある場合があることがあります。特に裂地として価値が高いものがあります。
1.室町、桃山時代 渡来裂 最も格が高い
2.江戸時代 17世紀 名物裂
3.江戸中期-後期 友禅など
、 この話はまたべつの機会に。
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